バンコクで土下座をした日 ~バーガールの涙とその怒り~

あの日、僕の犯した失態は一生忘れる事はないだろう…

もうご存知の通り、僕はタイで遊びの限りを尽くしてきた。あれは確か3度目の訪タイだったと思う。

僕は浮かれていた…。

なんたって待ちに待ったバンコクへやっと来れたのだから。

といっても前回の訪タイからのスパンは約2ヶ月!しかし、その当時の僕からしたら2ヶ月なんて宇宙だって創造できてしまうくらい長く感じたものだった。

到着日の夜からGOGOバーへ行く為、航空券も夕方に到着する便を予約!7日間の滞在で7回GOGOバーというオルガズムを感じられる様、出来る限り無駄な時間を作らない。帰りは0時ギリギリの最終便で翌朝日本到着の便を選ぶ。多少航空券が高くても時間を優先してきた。

タイへ到着後、すぐにタクシーを拾ってホテルへ向かうのだが、この瞬間がたまらなく心地良い。

古めかしい家々と高層ビルが乱立するバンコクの風景…夕日をバックにそれらを眺めながらハイウェイをひた走る。タクシーのラジオから聞き慣れないタイの曲が流れ、運転手が「マッサージはどうだ?」とボッタクリの臭いがプンプンする誘いを持ちかけてくる。

タイへ来たな…と実感できる至福の瞬間である。

ホテルへ着くなりすぐに身支度を整え、聖地GOGOバーへ!すべてが順調だった。あの事件が起こるまでは…

僕はGOGOバーへ行くと日本での忙しさや嫌な事…全ての悩みが一気に吹き飛ぶ。

当時付き合っていた彼女にも「タイと私!どっちが大事なの?!」と問われ「すまない…これは男のロマンなんだ!」現代版、お宮の松みたいな展開になっても躊躇なくタイを選んできた。この頃の僕はこの瞬間の為だけに生き、この瞬間が僕の人生の全てだった。

タイでの滞在中は携帯の電源を切り、極力日本人との会話も避けてきた。

普段は誰とでも和やかに対応する僕だが、タイに居る時ばかりは話しかけられても「俺に話しかけるな、日本人よ」と言わんばかりにタイで会う日本人には素っ気ない態度で接してきたし、タイにある所謂、日本人街と呼ばれる場所にも一切近づかなかった。それだけ日本を忘れていたかったし、日本という現実を思い出したくなかったからだ。

そしてその夜…僕は一人のバーガールを見つけた。

なんだかそのバーガールとは妙に気が合う。話をしていて面白い。僕のくだらないギャグにも反応してくれる。僕は決めた…このバーガールと今夜一緒に過ごそう!と。

楽しかった…とても楽しかった。

そしてつい言ってしまった。

言ってはならないあの一言を…

「明日も君と…過ごしたい」

前回の日記にも書いたが、ここ、GOGOバーで「明日」という約束をするのは非常にリスクが高い。

何故なら、GOGOバーには数えきれない程のバーガール達が存在している為、約束をしても高い確率で他に気に入るバーガールを見つけてしまうからだ。そもそもGOGOバーへ遊びに来てるという時点で、一部を除いて一人のバーガールだけに絞るなんて事があるわけ、いや!出来るわけがない!根本的に男の本能とはそういう仕組みになっているのだ。

結局、約束したそのバーガールは翌日の昼、ホテルの部屋まで来てくれるという話になった。

そう、つまりもう逃げ場のない状況を自分で作ってしまったのである。

だがそんな不安をよそに案の定見つけてしまった…大本命を。

この時出会ったこのバーガールこそ、後に恋愛劇を繰り広げる事になる本命の相手となるのだが、その話はまた次回に…

そして僕は何の迷いもなくその本命さんに「今夜、君と過ごしたい!」と幾度となく言い放ってきたお決まりのフレーズを後先考えずに言ってしまったのである。

そのまま一緒にご帰宅する事になるのだが、予め明日何時に帰るのか確認した所、朝には帰る…と言っていたのでこれで問題ないだろうと安心しきっていた。

次の朝には本命さんが帰宅し、その後、お昼には約束していた他のバーガールが部屋へ来る!これですべてうまくいく筈だと…

だが次の日、目が覚めるとまだ隣で寝ているではないか。

「えぇぇぇ!朝帰るって言ってたじゃーーん!」

時計の針はもうお昼近くを指している…

まずい展開になってきた…このままじゃダブルブッキングが確定してしまう!しかし今から起こして帰れとも言えないし、何よりもう時間がない!そしてあたふたしてる間にその時は訪れた…

ピンポーンと部屋のインターホンが鳴る。全身に緊張が走る。心臓を鷲掴みにされた様な気分の僕。

とにかく二人が鉢合わせになる状況だけは避けなければならない。

そう考えた僕はとりあえずドアを開け、声を出させない様にジェスチャーで人差し指を口に当てる。

部屋で寝ている彼女に気づかれない様に…

そのまま部屋のドアをゆっくり閉め、部屋から遠ざけ、エレベーターの前まで連れて行き、そこで僕の取った行動は…

土下座だった。

事情を説明して「すみませんでした!」と土下座をして謝った。

この頃、まだ英語力の乏しかった僕にできる最大の表現方法は土下座というボディランゲージを駆使して相手に詫びる事だった。

バスローブ姿で地に頭を伏せる僕。そんな無様な姿を、通りすがりの外国人宿泊客が「なんだあれは」と笑い飛ばす始末。しかしそんな事よりも今この場を何とか収めたかった僕はひたすら謝った。

この時が、人生初の土下座である。

今でも忘れない、悲しみと怒りに満ちたあのバーガールの表情は言葉では言い表せない迫力があった。外国人だから余計にそう感じたのかもしれないが、もうこんな思いは二度とご免である。

今更善人ぶるわけじゃないが、人を悲しませるのは本当によろしくない。

血の通った人間である以上、自分も苦しいし相手はもっと苦しい思いをするからだ。

全ては僕の軽率な行動、いや!軽率な人間性が招いた失態だった。

そのバーガールは何も言わずにその場を後にしたのだが、もうこれ以上こんな悲しみを生んではいけないとこの時、僕は心に誓った。

確かに相手はタイの娼婦かもしれない。金さえ払えばこっちは客であり文句を言われる筋合いなどないが、そういう問題ではない。相手は一人の女性なのだ。よくレストランなんかで店員に対して態度の悪い人を見かける事があるが、僕はああいうのは大嫌いだ。それと同じである。

なにより、それを言ったら僕が崇拝してきたGOGOバーを否定する事になる。

もはや僕の中でタイの娼婦は娼婦ではなく、バーガールという特別な存在に変わっていた。

時既に遅しだが、もう一度しっかり謝ろうとそのバーガールの働くバーへ行ったが、そのバーガールは一言も喋ってくれなかった。どころか他のバーガール達に「アナタ!ワルイ!ダメ!」と片言の日本語でお叱りを受ける始末。

挙げ句の果てに「アナター ワタシー イッショニ ホテルー!」と結局そうなるんかいっ!となんとも腑に落ちない結果で終わってしまった。

もちろん丁重にお断りしたが、この意味の分からない展開もGOGOバーの面白さの一つなのだろう。と、また一つタイの思い出の1ページに刻まれる事になったのだった。

【あとがき】

全員とは言わないが、タイ人って凄く不思議だなーと思うのが、彼女等はすぐに友達を作っては簡単に縁が切れる。かといって関係が浅いのかというとそうではないらしい。GOGOバーで働くバーガールに焦点を合わせた場合だが、バーガールで仲良くなった者同士、出勤時や帰宅時、食事時やオフの日もいつも行動を共にし、常に連絡を取り合っている。と思うと、ふとどちらかが居なくなっていたりするのだが、どうしたのかと聞くと「何処に行ったのか分からない。連絡も取れなくなった。」といった事がままある。喧嘩でもしたのか?と訪ねると、どうもそういう事でもないらしい。と思ったらひょっこり戻ってきてはまた同じ様に行動を共にし出す。こんな様な話を過去、幾人かのバーガール達から聞いた事があるのだが、どうしてこうなるのか、まぁ不思議でならない。文化が違えばこうも大きくライフスタイルも変わるものなのかと、とにかく謎が多い。本編から話が脱線したが、この様にタイに行く度、毎回大なり小なりハプニングに出くわすのだが、こういった予想外の展開が色褪せないGOGOバーの魅力の一つなのかもしれないと思わせてくれる出来事でした。是非男性の皆様方には一度経験してもらいたいですね。GOGOバーの面白さ。

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