セクシーな友達、マルガリータと晴れて灼熱のロマンス(前回の日記参照)を果たしたその前後に起きた番外編、3本のショートストーリーをご紹介。
⒈ キスされて
⒉ アニメオタク
⒊ 裸のビーチ
【キスされて】
ある日の事、マルガリータが僕に言った。
「何をしたいのか私に言って!」
彼女の言い分としてはこうだ。
何をするにしても、僕は彼女の提案の殆どに「Yes」と答えていたので、彼女からしたら一体僕が何をしたいのか分からない。
と、こう言うのである。
何も言わずともマルガリータが何処かへ連れて行ってくれるので何かを主張する必要がなかっただけなのだが、そんな僕の姿が「自己主張をしない人」に映っていたのかもしれない。
日本では自己主張をすると出る杭は打たれるがの如く周りから叩かれる事も少なくない。
ところが逆に海外では自己主張をしていかないとどんどん周りに置いていかれる。
このウクライナでも「自分のやりたい事を主張する」というのは大事な自己表現の一つなのだろう。
「んー!じゃ君の日常を見てみたい」
僕にとって海外旅行の魅力の一つは、その国の人々の生活の中に入り込む事にある。
そこには、新しい発見の連続と予想外の展開に毎回驚かされるのだが、その度に、如何に自分が狭い世間の中で生きてきたのかと実感させられるのだが、こうして新たに自分の常識が更新されていくのがたまらなく面白い。
そして、その夜マルガリータの連れて行ってくれた先で、僕の常識がまた、新たに更新される事になる。
彼女が連れて行ってくれた先は、とある小さなバーだった。
そこにいたのはマルガリータの友人達が数名。
自分も含め、男4人女4人の黄金比。
既に彼らは僕が来る事を知っていたのか、待ってました!と言わんばかりに快く歓迎してくれた。
「さぁ座って座って!」
と、どう見ても2人様のソファーに既に2人座っているその間に座れというのだから驚いた。
しかし!そこに座っているのは2人の白人美女。
「いや、あっちに座るよ」
なんて断るのは愚の骨頂にも程がある。
僕は迷わずその狭い楽園に飛び込んだ。
両隣りには酔っ払った白人美女。
両脇から加えられるピンク色の圧力にこれほど幸せを感じた事など、かつてない!
そしてやはり日本人が珍しかったのだろうか、全員から質問の嵐……
その中で、1人の男性が僕に話し掛けてきた。
どうやら彼は日本人のガールフレンドが欲しいらしく、どうしても紹介して欲しいと言ってきた。
紹介してあげたいのは山々だが、その前にあんた…日本入国のビザを何とかしましょうよ。
話はそれからだ!
と言うと少し残念そうな顔をしていたが、発展途上国の殆どの国々では日本入国に当たりビザの取得が義務付けられている。
しかも、日本はビザ免除を許可していない国に対してビザ発給の審査が非常に厳しい。
ここまでやるか!? というくらい厳しい。
それでも東欧辺りならば、アジア圏の国々に比べ比較的ビザは発給され易くはなっているがそれでも、日本に身元引受人が必要だし、その身元引受人の経済状況、関係性を証明するもの、知り合ってから現在までの期間とその過程。
更に宿泊先、滞在理由、滞在中のプラン等、事細かに書いて提出しなければならない。
それらを提出したとしても必ずビザが下りるという保証もない。
つい最近、やっとタイとマレーシアからは、観光目的ならビザ免除での入国が許可されたが、不法滞在、売春、薬物の密輸入、その他外国人犯罪を日本は強く懸念している為、これだけビザ発給の審査が厳しいのだろう。
というわけでビザ免除が許可されていない国の人々にとっては、例えお金があっても簡単に入国が許されない。
しかし「日本人のガールフレンドが欲しい」という彼の夢を壊したままで終わらせたくない。
外国人に憧れる彼の気持ちは僕も良く分かる。
「いつか必ず日本へ来い!その時は君にジャパニーズガールを紹介すると約束する」
彼に笑顔が戻った。
それから、会話も弾み楽しい時間を過ごし、そろそろお開きにしようとその帰り際、先程の男性が僕に近づいてきた。
近過ぎるというくらい近付いてきた。
そしてなんと、唇の端と端で……
「チュッ」
全身に寒気が走る。
一体なんだってんだ!
さっき日本人の女の子を紹介してくれと言ってきたばかりじゃないか。
女の子じゃなくて「日本人の男」を紹介してくれの間違いだったんじゃないのか!?
僕はすぐさまマルガリータに問いただした。
「あいつにキスされたぞ!まさかゲイだったのか!?」
たじろぐ僕にマルガリータは答えた。
「あら、ここじゃ当たり前の事よ?」
そしてその瞬間、僕は知った。
男同士が挨拶にキスをし合うという身の毛もよだつ習慣がこの世にあるという事を。
ジョリっとした彼のヒゲの感触だけを頬に残して……
【アニメオタク】
日本が世界に誇れるものと言えばなんだろうか?
精密機器や電化製品の類、日本食文化や車など、少し考えるだけで様々なものが出てくる。
日本は弱小国だとか、景気が悪いとか言われているが、それでも世界屈指のメジャーな国であり、裕福な事に変わりはない。
それは海外へ行ってみれば良く分かる。
日本人という人種の多くは贅沢が好きなのだ。
そして忘れてはいけないのがこれ!
「アニメ」
僕が初めて会う外国人に日本人だと自己紹介する時「寿司」の次に多く話題に出されるのが「アニメ」である。
今や世界中に多くのアニメファンが存在しており「オタク」という呼称は世界共通になりつつある!
もはや「アニメ」とは、世界へ誇る日本の文化の一つと言っても過言ではないのかもしれない。
そしてまたある時、マルガリータが僕に言った。
「どうしてもあなたに会いたいっていう友達がいるのよ。会ってあげてくれない?」
と、こう言うのである。
「別に構わないけど…どうしてまた俺に?」
少し遠慮しがちなマルガリータ。
「実はその彼……」
そう、大のアニメファンなのである。
アニメ大国、日本からの訪問者に彼はどうしても会って話がしたいという事らしいのだが、僕は日本人というだけでアニメに全く詳しくない。
そりゃマンガだって読むし、有名なアニメなら名前を言われれば分かるがあくまでその程度。
今やアニメなんて次から次へとキリがない程輩出され続けている。
しかも、彼の様なアニメオタクが好む様なものは、もっとディープな位置付けにあるものだったりするわけで、そんな僕が彼等の好む様なアニメの作品を知っている訳もなく、その彼に有難く思われる要素など何処にもない……
が、面白そうじゃないか。
会ってみよう!その、ウクライナのオタクに!
その数時間後、早速彼が僕の宿泊先へ訪れた。
年の頃は20歳そこそこで、洒落っ気も無く、見るからに気の弱そうな地味なタイプ。
趣味が「アニメ」というのは満場一致で納得されるであろう雰囲気の持ち主だった。
マルガリータも遠慮しがちにお願いするのも分からなくはないが、僕はそんな人の趣味や見た目だけで毛嫌いするつもりはない。
大事なのは「面白さ」だからだ!
「やぁ! 君にプレゼントを持ってきたよ!」
嬉しい事に、なんと彼は段ボール箱一杯に詰まったチェリーを持ってきてくれたのだ。
聞けば実家が農家らしい。
早々に自己紹介を済ませ、有難くその大量のチェリーを頂戴し、美味しく頂きながら彼の話を聞く事に……
やはり彼はアニメの話に花を咲かせたかったのか、これは知ってるか? あれどうだ? と聞いたこともない様な日本のアニメやアニメソングを僕に紹介してくるのだが、サッパリ分からない。
僕はどちらかと言うと彼の趣味よりも「初体験はいつだ?」とか「どういう女性が好みなんだ?」と言った具合に彼のプライベートに突っ込みを入れて反応を見てみたい!
こういうタイプの人間に差別意識がある訳じゃないが、どうしてもからかいたくなる性分は大人になった今でも抑えられないらしい。
が、せっかく僕に会うのを楽しみにし、わざわざチェリーまでお土産に持ってきてくれた彼の期待に何一つ応えられないというのは僕の礼儀に反する。
何か盛り上がれるアニメの話題はないか……
あるじゃないか! とっておきのやつが!
「ドラゴンボール!」
これは言わずと知れた名作中の名作!
かめはめ波!と言えば世界中の人達が「ドラゴンボールだろ!?」と期待通りの反応を見せてくれるはず!
実写版のドラゴンボールも数年前に世界中で公開されており、映画試写会か何かで外国人が「カメハメハー!」とカタコトの日本語でポーズを決めていたのをテレビか何かで見たこともある。
僕らが子供の頃は、銀河ギリギリぶっちぎりで人気No1を独走し続けてきたアニメであり、毎週水曜日の夜7時になると日本中の子供達が、胸がパチパチするほどテレビに張り付いて観ていた程、僕らの世代からすれば、もはやドラゴンボール無くしてアニメは語れない!
「ちょっと古いかな」
あっさり一言で返されてしまった。
もうお手上げだ。
彼の期待に応えられなかったのは申し訳ないが、今度はこっちが質問させてもらう番だ。
「ところで君、初体験はもう済ませたの?」
彼に対する突飛な質問に吹き出しそうになるマルガリータ。
さぁここからは俺の土俵だ!
面白いアクションを見せてくれ!
「実は僕、今まで誰とも付き合った事がないんだ」
理由を聞いても女性であるマルガリータがその場に居るせいか、どうやらそこから先は言えないらしい。
「わかった。じゃあっちで話そう」
と彼を別室へ連れて行き理由を尋ねた所……
「女性は好きだけど、女性の考えてる事が僕には全く理解できない!だから彼女が欲しいと思わないんだ。誰にも言わないでね!」
そういう事だったのね。
かと言って女性と接する事に対して苦手意識がある様にも思えない。
しかし、ある種の専門知識に優れた「オタク」と呼ばれる人達はちょっと変わり者だったりもする。
そして変わり者というのは一貫して他人の助言を聞き入れない傾向にある人が多く見受けられる様に思う。
彼がそうだと言ってる訳じゃないが、僕がここで彼に余計な世話をやくのもナンセンスだろう。
しかし! 人生の先輩として一つだけ彼に助言してあげたい。
誰にも言うなという彼のお願いに頷き、そして優しく彼の肩を叩き一言。
「それは、男の永遠の課題だよ……」
趣味も人種も違う者同士、遠く離れた東欧の地で、また一つ、新たな男の友情が生まれたのだった。
【裸のビーチ】
世界中に「ビーチ」と呼ばれるものは数え切れないほど存在する。
そこでは皆、海水浴を楽しんだり、のんびり海を眺めながら自分の世界に入り込んだり、大好きなあの人とロマンチックなひと時を過ごしたり……とまぁ楽しみ方は様々だ。
そこで、想像してみて欲しい。
もしも、そのビーチにいる人達全員が裸だったとしたら……
70年代のヒッピーじゃあるまいし今時おいそれと公共の場で裸になる人などいるはずがない。
それは想像上でしかあり得ない光景だと多くの人は思うかもしれない。
しかし、そんな常識を覆す場所が実際にある!
文字通りその場にいる全員が素っ裸という驚くべき実態が本当に存在するのだ。
その名も「ヌーディスト・ビーチ」
ここへ訪れるキッカケとなったのはやはりこの人!
マルガリータだった。
もう僕の日記の中で彼女の存在はウクライナの道先案内人と成りつつあるが、彼女の導いてくれる先に間違いなど何一つなかったのもまた事実!
僕は彼女に絶対の信頼を置いていた。
そしてまたまたある時、マルガリータが僕に言った。
「黙って私について来て」
何処へ連れて行ってくれるんだろうと少しワクワクしながら言われるがままついて行く事に。
着いた先はとあるビーチ。
と思いきやそこには目を見張る光景が広がっていた。
素っ裸でビーチに佇む群集!
ある人は裸で水浴びをし、ある人は裸で日光浴をし、またある人は裸でバーベキューまでしているではないか。
それは初めてタイのGOGOバーへ訪れた時以来の衝撃だった。
ここで誤解して欲しくないのだが「ヌーディスト・ビーチ」というのは、卑猥な事を行う場所ではなく「裸」という事を除けば至って普通のビーチなのである。
もっともこの地球上の何処かに卑猥な戯れを目的とするビーチもあるのかもしれないが、僕の訪れたこのビーチはそういう場ではないという事だけは前置きしておきたい。
それにしても、老若男女問わずその場にいる全員が生まれたままの姿という光景には驚きを隠せなかった。
そんな僕を見て嬉しそうに笑うマルガリータ。
僕は過去に「ヌーディスト・ビーチ」というものが、数は少なかれど世界各地に存在しているというのを話に聞いた事はあったが実際にそれを見たという人に未だかつて会った事がなかった。
「ここがそうだったのか……」
驚きと感動で僕の胸がいっぱいになった。
しかし一体誰が、如何なる理由で、どの様にして「ヌーディスト・ビーチ」を作ったのか。
僕はそこに興味がある!
誰かが意図的に作ったのか、それとも自然に出来上がったものなのか……
どちらにせよそこには必ず理由とプロセスがありそして…第一人者が存在する。
アメリカ大陸を発見したクリストファー・コロンブス然り!
大政奉還を成し遂げ、明治維新を切り拓く礎となった坂本龍馬然り!
必ずいるはずだ。
「ヌーディスト・ビーチ」という奇想天外な発想を実現させた人物が……
裸のパイオニアが!!!
新しい発見に感動を覚え、何の役にも立たない考察に浸っていたのも束の間、気がつくと隣にいるマルガリータが何の躊躇もなく裸になり出した。
そうとくれば僕も裸になるしかない。
っていうか裸になりたい!
なってみたい!
別に僕はストリーキングでもなければ井手らっきょでもない。
はたまたそんな趣味があるわけでもないが「ヌーディスト・ビーチで裸になった」という結果を残したい!
そんな僕を人は「バカ」だと言うかもしれないが「バカ」「くだらない」というのは僕にとって最高の褒め言葉。
僕はそんな「バカ」な事に真剣であり、誰もが思う「くだらない」という事に精力を注いできた。
そしてきっとこれからもそうするだろう。
そんな自分にとっての大きな価値が正に今!ここ!目の前にあるのだ!
違う国で生まれ育った者同士、互いに理解し合える様になるのは容易な事ではないのかもしれない。
しかし「ヌーディスト・ビーチ」と呼ばれるこの場所に、国の文化や言葉の壁など存在しない!
そこにあるのはただ1つ!
「裸一貫」という誰にも咎める事のできない絶対的な権利のみ!
そして今「ヌーディスト・梶 善貴」が誕生しようとしたその時!
「あなたはダメ!」
とマルガリータに止められてしまった。
一体なぜ?
ここまで来てよそ者は受け付けないというローカルな風習があるわけでもないだろう。
「ちょっとまってくれ。俺の隣にいる君が裸なのになぜ俺は裸になっちゃいけないんだ?」
彼女は言った。
「だってあなた、下半身の処理してないじゃない」
女性はともかく男性の下半身にフォーカスするのは不本意だがよく見ると、確かに男女共みんな綺麗に下半身の処理が施されてある。
なるほど、裸にも裸のマナーってもんがあったんだな……
ここまできて自慢の「サムライソード」をお披露目できなかったのは悔やまれるが、マルガリータに迷惑はかけたくない。
ただ、ウクライナに唯一の心残りがあるとすればそれは……
ヌーディストになれなかった事だろう。
だがいつか必ず果たしてみせる!
次は万全の「下準備」を整えて……
【あとがき】
世の中には自分の知らない事がまだまだ山程あり、そしてそこには様々な価値観が存在する。一生のうちにその全てに出会う事は難しいかもしれない。でも僕は一つでも多くの「なんだこりゃ!」という驚きを見つけたい。そんな驚きが僕にとって最高の価値であり、生きる楽しみの一つ、なのかもしれない。そして今年も行こうじゃないか!僕の大好きなタイへ!また新しい驚きという価値を見つけに!
0コメント