嵐のあとの恋模様 ~Romance Of Ukraine~

それは2012年の夏のこと。

僕が足を踏み入れた未開の地…ウクライナ。

ウクライナ行ってくる!と言うと、「何故ウクライナに行くの?」 と多くの友人や知人に問われたのだが、その全てに僕はこう答えた。

セクシーな友達に……会いに行く!

ウクライナとは、東ヨーロッパに位置する旧ソビエト連邦圏の国であり、今も尚、共産主義時代の名残を垣間見る事ができるモノ好きからすれば非常に興味深い所でもある。

また、ウクライナといえば1986年に起きた「チェルノブイリ原発事故」が世界的にも有名である。

そして何より!

東欧諸国には美人が多い!

と、話に聞いていたもんだからいつかこの目で確かめたい!という気持ちをずっと心の中に秘めてきた。

そして、HOTな白人さんとひとときの燃える様なロマンスに浸る……

こんな贅沢が他にあるだろうか?

そして、ある時そのチャンスが思いもよらぬ所から降ってきた。

Facebookからメッセージ……しかも僕の大好きな白人さんから。

彼女の名はマルガリータ。

グレーの大きな瞳にグラマラスなボディライン!

分厚い唇に塗られた赤いリップと黒いアイラインが白人のもつエキゾチックさに拍車を掛けていた。

そんなセクシーな白人美女から一通のメール……

これが彼女との始まりだった。

これまでの僕はタイで様々な「恋愛劇」を経験してきていた、いや、し過ぎてきた為、この時の僕は英語でコミュニケーションを取るくらいワケなかった。

過去10回以上の訪タイの最中、その80%以上の時間を「恋愛を楽しむ」という一つのカテゴリーにフォーカスしてきた為、既にこの時、僕は歩く恋愛翻訳機 in English と化していた。

当然話もスムーズに進むし、メールしてきたのは相手からなのだから、大なり小なり自分に興味を持ってくれていただろう事は間違いないと思った。

聞けば、どうやら彼女は日本に凄く興味があるとのこと。

日本人のお友達が欲しかった……とそう言っていた。

それから毎日の様に僕らはメールやスカイプで話をした。

まだ面と向かって会った事こそなかったが、一ヶ月間くらい毎日の様にカメラ越しに顔を合わせて会話をしていた為、そこには親近感は愚か信頼関係すら生まれてきていた。

こうして毎日の様に話をしていると、互いの住んでる場所がこんなにも離れているとは思えない程、不思議な感覚に捕われるのである。

そうなると次の流れは必然的にこうなる。

「彼女に会ってみたい!」

丁度この時、僕はカナダへの移住を後に控えており、日本での仕事も終えたばかりで時間も十分にあった。

一方、マルガリータも来月には仕事を辞め、しばらく休暇を取ると言っていたので、そこで僕は考えた。

今がチャンスなのでは?

そこで僕は彼女へ切り出した。

「僕がウクライナへ行ったら、会ってくれるかい?」

すると彼女は答えた。

「もちろんよ!私があなたを色々な所へ案内するわ!」

僕は自分に問いかけた。

今の自分に必要なものはなにか!と。

行動力こそが自分の強みであり、これを無くしたら……俺じゃない!

行こう!ウクライナへ!

それは、これから訪れる「その時」の約二ヶ月前の事だった。

未開の地、ウクライナへ行く決心をした僕は翌日にウクライナ行きの航空券を予約!

取り敢えず情報収集をしようと思いガイドブックを探してみたものの、何処にもウクライナのガイドブックが売ってない! ネットで調べても有力な情報と呼ぶに値しないものばかり。

僕の行こうとしている場所、つまり彼女の住む街はウクライナ第3の都市と呼ばれるオデッサ。

そこは黒海に面した街であり、夏になるとリゾート地として多くのウクライナ人やロシア人、その他周辺の国の人達が訪れるいわば、東欧諸国の人々に向けた観光地なのである。

そう、だからそんな辺境の地に日本人など訪れるわけもなく、情報が乏しいのは当たり前だった。

分からなければ手探りで探せばいい。

それもまた、冒険の醍醐味の一つでもある。

海外での遊びはガイドブックに従うのではなく、自分の楽しみ方を作り上げて行くのが僕の考える楽しみ方。

これこそが、予想だにしていなかった展開に出会えるというもの。

なので、ご丁寧にその国の観光名所と能書きが紹介されてる様なガイドブックは僕には必要ないのだが、それ以外の最低限の情報と守るか守らないかは別として、その国の常識やマナーは頭に入れておく必要がある。

何より、今回はマルガリータというセクシーな現地人が一緒にいてくれるわけだから、心配には及ばないのだが、それでも一人放り出されてもやっていけるくらいの情報は欲しい所ではあった。

そして待ちに待った美人大国と噂のウクライナへ行く日がやってきた。

北京とイスタンブールを経由して飛行機で行く事10数時間。

遂に到着した……ウクライナ第3の都市、オデッサ。

成田空港の10分の1にも満たないであろうその敷地と、お世辞にもご立派とは言い難い建造物。

見事なくらい殺風景な空港を見て、さすがに少し不安になってきた。

というのは、元社会主義国に対して少なからず抱いてる印象……

それは「貧困」と「危険」という二つのイメージ。

この時はまだ、この二つの言葉がどうしても完全には頭から拭いきれないでいた。

しかし!だからこそ面白い。

未知の体験をする前は誰しも期待と不安が入り混じるものである。

こうした新しい体験をする度に「度胸があるね」とか「行動が突発的だ」と言われるのだが、自分自身、度胸があるなどとは全く思っていない。

僕の場合、不安や恐怖よりも好奇心が勝ってしまう。

ただそれだけの事だ。

そして自分のやりたい事に対して何をすべきか建設的に考えていけば自ずと道は見えてくる。

道筋が見えたら、あとはゴールに向かって一直線に進めば良いだけで、そこにダラダラと無駄な時間をかける必要はない。

至ってシンプルが故に突発的に見えてしまうのかもしれない。

もっとも僕の普段のキャラクターからは到底そこまで物を考えて動いてる様には見えないのかもしれないが。

その為、ウクライナへ行く事に対しても散々反対されたりもしたのだが、想像だけであーだこーだものを言われる事に、もううんざりしていた。

行った事もないのに何故分かる?

今までに「人の想像」ってやつを行動によって180度くつがえしてきた事が幾度かある。

そんな過去の経験から僕は、人の想像する物事は、十中八九的から外れている事が多いというのをよく知っている。

もちろん僕だって想像はする。

が、想像とはあくまで想像であって事実ではない。

根も葉もない想像だけで物事を決めつけてしまうというのはあまりに残念に思う。

いつかの日記の中でも書いたが、

「どんな想像も一つの事実の前では無価値に等しい」

いつからかこの言葉が自分の中で強く響くようになった。

だから、僕の中にある好奇心が刺激された時、それを自分の目で確かめなければ気が済まない。

そう…どれ程の美女がウクライナに存在しているのかという「事実」を!

しかし、もうあれこれ考える必要などもはや……ない!

だってもう来ちゃったんだから!

ウクライナに!

そして何より、そのゲートの先にはセクシーな友達!マルガリータが待っていてくれているのだから!

期待と不安をよそにゲートをくぐると……

いた!マルガリータ!と……ん?

その隣には身長190前後はあるであろう大柄の中年男性。

誰だこの人!?

そしてマルガリータから最初の一言。

「紹介するわ、私のパパよ」

マルガリータのパパ!?

まてまて! パパ登場って、ゲーム序盤からいきなり最終ボスが出て来たようなもんじゃないか!

しかも俺、フランクな英語しか喋れないぞ! どうする……

とりあえず「nice too meet you sir」と語尾にsirを付けとけば問題ないだろうと思い挨拶を済ませた。

するとパパは答えた。

「長いフライトで疲れたろう?街を案内がてら送っていくよ」

そして僕は、パパの歓迎に甘んじて車に乗り込んだ。

車窓から映り込むウクライナの風景。

発展途上国さながらの、不完全な建物やどこか寂しく、ちょっぴり暗く感じるオデッサの街は、これから起こるハプニングを予感させるには十分な空気を醸し出していた。

そして、僕の隣に座るマルガリータ。

目が合うとニコっと微笑む彼女の表情を見て僕はドキっとした。

美しい。

目鼻立ちや顔の輪郭まで完璧なシルエットに大きなグレーの瞳から放たれる眼力。

それは自分の好みのタイプだとか、そういった常識を超えた美しさだった。

そんな彼女に見とれながら車で走る事十数分。

到着した先は、とある巨大マンション!

実は、オデッサにはホテルの数が少ない。

観光地なのにどうして?

と思うかもしれないが、観光客が多く訪れる夏の間は、家主がマンションを観光客にホテル代わりとして貸すのが一般的となっている為、ホテルの数がそんなに多くなく、一泊数万円からと比較的値段の高いホテルばかり。

という訳で、マルガリータが事前に僕の泊まる部屋を用意してくれていたのだ。

「じゃ、明日の朝迎えに来るわね」

部屋に着くなり、そう言い残してマルガリータはその場を後にした。

そして翌朝、結構な大荷物を持って彼女が僕の部屋へやってきた。

そんなに荷物抱えてどうしたのかと聞くと、

「私もあなたと一緒にここに泊まるからよ。嫌?」

いいんですか? いいんですかぁぁぁぁ!?

頭下げてでもお願いしたいくらいハッピーなシチュエーションじゃないか。

僕は答えた。

「まさか! 君と一緒に過ごせるなんて、こんな幸せな事が他にあると思うかい?」

それを聞いた彼女は笑っていた。

冗談半分で口にしてみたものの、内心はこの言葉の通りだったという事は言うまでもない。

それから10日間のマルガリータとの生活が始まる事となった。

怖いくらいトントン拍子に自分の理想としていた状況に近づいていく。

それからマルガリータに連れられて黒海のビーチをお散歩していたのだが、噂通り……本当に美人が多い。

大袈裟ではなく「2人に1人は美人」と言ってもおかしくないくらい高確率で美人に遭遇する。

個人の好みを除いて、男女共に世界で最も容姿に優れた人種と認知されているのは白人種である。

もちろんカナダにも美人は沢山いるし、通りすがりの白人さんに見とれてしまう事もしょっ中あるが、ウクライナではそれを遥かに凌ぐ。

東京に住んでいた頃も、美人な女性は多く見かけたが、単純に、人口密度=美人に遭遇する確率は比例していると考えた場合、確率だけで言えば人口密度の高い所に行けば行く程、美人遭遇率が上がるというのは納得できる。

東京の人口1300万人に対して、ウクライナの人口は100万人と、東京の10分の1にも満たないにも関わらず、これだけの美人遭遇率は驚異だと言える。

細かい事は抜きにして単純にこの数字だけで計算した場合、ウクライナがどれ程の美人輩出国なのかかお分かり頂けるだろう。

もはや隣にいるマルガリータが霞んで見えるくらい美人だらけだった。

ここまでくると、ウクライナでは美人なのが当たり前と言っても過言ではないのかもしれない。

しかし!アジア人だって素晴しいポテンシャルを秘めている!

白人と比べてアジア人は老化が遅い!だから歳を取っても若く見える人が多いが、白人はアジア人に比べ老化が早い為、個人差はあれど同い年でもずいぶん年齢差がある様に見える。

更に白人、特にロシア系なんかは歳を取ると急激に太る!

無論、アジア人も歳を取れば男女の有無に関わらず脂肪が付き易くはなるのだが、その脂肪の付き方が半端じゃない。

なので、美人率も高いが、年齢層が上がる程、肥満率も高いと言える。

これが、実際にウクライナへ行って、見て感じた僕の事実である。

しかし、いくらそこら中美人だらけだと言っても僕にはどうする事もできない。

如何せん、ウクライナ人やロシア人の多くが英語を喋れない人達ばかりなので、話しかけた所で言葉が通じないんじゃその先へ進めようがない。

それに、僕にはマルガリータがいるのだから、一体これ以上何を望むというのだ。

そして、これまでずっと抱えていた「美人大国の謎」は、ある意味これで完結した。

これで僕に残された使命は……

白人さんと燃える様な恋のロマンス!

つまりマルガリータとの関係をそこまで進展させる事だった。

とは言うものの、マルガリータが僕の部屋で一緒に過ごすという事が決定しているこの状況下、果たしてこれは使命と呼べる程の事なのか?

この時、僕は完全に勝ち組の側にいる!とタカをくくっていた。

その夜の事……

僕は待っていた。

待ちに待った「その時」が訪れる瞬間を!

ウクライナの美女!そのベールが解かれ、マルガリータの魅力のすべてが引き出されるであろうその夜を!

隣の部屋にはこれでもか!というくらい大きなキングサイズのベッドがスタンバイされている。

時計の針は既に0時を回り、楽しい喋りも終盤に差し掛かろうとしていたその時!

マルガリータが僕に放った一言。

「じゃ、私あっちの部屋で寝るから。また明日ね!」

彼女は満面の笑みを浮かべて隣の部屋へ去って行った。

甘かった……完全に自分の考えが甘かった。

そう、ここは日本ではない。

なぜか、国の距離が近ければ近いほど、その文化や習慣に共通点が多く見られるが、離れれば離れる程、文化の違いに大きく差が出てくる。

やはり国が違ったとしても、細かい事を抜かせばアジア人同士だと共通点も多いのだが、東ヨーロッパまで離れてしまうと文化のずれがここまで大きくなるものかと実感したものだ。

ここでは挨拶に、男女に関係なくハグどころか友人同士がキスをするのは当たり前。

男同士でも別れ際にキスをする程、今まで訪れたどの国よりも「キスの文化」が盛んだった。

とにかく彼らは男女とも友人同士の距離が非常に近い。

僕の現在暮らしているカナダのバンクーバーの場合。

カナダ人達は親交的で、まったく知らない他人同士でも所構わず笑顔でおしゃべりをし出す。

しかし、それはそれ、これはこれと言った様にそれ以上の仲にはお互いに進展する事があまりない。

おしゃべりが終わればバイバイと言ってまた見知らぬ他人に戻っていく。(ちなみに男女に至ってはその限りではない。特に日本人女性!簡単に体を許すと思われてる事が多いのでガンガン声をかけられます。)

一方ウクライナはというと、逆に見知らぬ他人に対しては閉鎖的なのだが、一度、知り合いや友達だという認識をもつと急激に距離が近くなる。

これまで様々な国の人達と多く係わり合い、今では国内外含め沢山の友人にも恵まれているが、ここ、東欧のウクライナは他と全く違った独自の文化や習慣があるのだと改めて気付かされた。

もしかしたらここでマルガリータが部屋に泊まりにくる事くらい、彼女からしてみたら当然の事に過ぎなかったのかもしれない。

だってお友達なのだから。

とある1人の親友が僕に言った言葉がある。

「おまえ、簡単にクリア出来るゲームがあったらそれを面白いと思えるか?」

その通り!簡単に乗り越えられる壁になんの価値がある!

そもそも敷かれたレールの上を歩く事を昔から嫌っていたはずじゃないか。

そうだ、そうだった……

人が無理だ!と反対する中で「俺ならできる!お前らと一緒にするな!」とやり遂げられたかどうかは別として…気構えだけは誰よりも一人前だった筈じゃないか!

ここで簡単に諦めるくらいの男なら最初からウクライナへなど来ていない。

お友達だぁ?

結構じゃないか。

だったらその壁を壊してやればいいだけの事だ。

それはこれから起こる「その時」の3日前の出来事だった。

マルガリータは、これでもかというくらい僕を色々な所へ連れて行ってくれた。

そんな中である夜……事件が起きた。

その夜、マルガリータが連れて行ってくれた先は、アルカディアという名のビーチクラブ。

ここはビーチに面して建てられたクラブが無数に点在している場所であり、スペインのイビザ島を模して作られたのだそうだ。

天井が吹き抜けになっており、音楽と共に踊っていると何とも言えぬ爽快感に包まれる。

あまり興味の無い人はこの手の話を聞いても面白くないかもしれないが、クラブというのは通常、箱詰め状態となる。

つまり完全な室内となっている為、この様に半吹き抜けのクラブというのを今まで見たことがない。

音響だけに拘るのなら密閉された室内の方が音の質が良いのは間違いないが、野外レイブなど、外で行われるフェスティバルなんかは音質というよりも広々と野外で楽しめる開放感が魅力となる。

が、このウクライナのビーチクラブは野外の開放感と室内で響かせた音の跳ねっ返りが心地良く感じる、正にクラブと野外レイブを融合させた様な作りになっていた。

また、東欧諸国の若者達の多くがこのビーチクラブを目指して訪れるのだが、日本のパーティーフリーク達がここへ訪れたなら、今までに感じた事のない楽しさを味わえるだろうと思う。

またこれこそ夜のオデッサ最大の魅力がここに詰まっているのだろうとここへ来て実感した。

そんな僕の心を高揚させるに十分過ぎるこの場所で……その事件は起きた。

僕とマルガリータと彼女の友達数人で遊びにきたのだが、とあるロシア人旅行者達とひょんな事から居合わせる事になり一緒に行動を共にする事となった。

問題なのは、マルガリータとその友人以外、英語が全く喋れない。

そのロシア人達も日本人がこんな所にいる珍しさからか、マルガリータの通訳を通して色々質問してくるのだが、些か話が盛り上がるには限界がある。

次第にロシア語だけが行き交う場と化していったのだが、そうなるとチンプンカンプンになってしまう僕としてはその場に居ても全く面白くない!

なので1人で何処かに遊びに行こうとしたらマルガリータに止められた。

「あなたに何かあったらどうするの! あなたの問題は私の問題でもあるのよ」

僕だって子供じゃない。

1人で遊んで部屋に戻るくらい難しい事でも何でもないが、彼女の言う事にも一理ある。

ここは少し我慢して素直に従おうと思いその場に踏み止まった。

が…数時間経ってもロシア語のカンバセーションが止む気配はないどころか、マルガリータは1人のロシア人男性とずっと楽しそうに喋っている。

正直、その嫉妬心もあったのだろう。

もう限界だ。

帰る!と言うとまたもマルガリータに制止されたが、今度ばかりは我慢していた事をすべて吐き出した。

「俺はロシア語が分からない。会話ができない中に1人いて楽しいと思うか? 俺は1人で遊んでくるから、君はあのロシアン野郎と好きなだけ喋ってりゃいい!」

この時、とにかく頭にきてファックだのビッチだの汚い言葉を連発してしまった。

悲しそうな表情と困った表情が入り混じるマルガリータ。

「彼は良い人よ! ただお友達として話が盛り上がってただけじゃない!」

その通りだ。

しかしこれじゃ僕の腹の虫が収まらず尚も吐き続けた。

「ああ、そうかい! 俺は君の彼氏じゃないし、あのファッキンロシアンとビッチなウクライナ人がどうなろうと知ったこっちゃない! とにかく俺は帰る!」

どちらにせよこうなってしまった以上、もうここに止まっていても仕方がない。

「あなたが帰るなら私も一緒に行くわ」

そう言ってマルガリータは僕についてきてくれた。

しかし、帰りのタクシーでも険悪なムードは続いた。

マルガリータが僕に話しかけても

「俺に話しかけないでくれ」

と彼女の問いかけにまったく応じようとしなかった。

「お願い、もう怒らないで。私がもっとあなたの事を考えてあげるべきだったわ。ごめんなさい」

彼女は大人だった…

歳下なのに、この僕よりもずっと大人だった。

なんて酷い事を言ってしまったんだ!

彼女はこの数日間、僕の為に色々とケアをしてくれた。

僕を楽しませようと、退屈させない様にと彼女は気を使ってくれていたに違いないのに…

それは彼女の優しさを仇で返してしまったも同然だった。

「俺も酷い事を言って悪かった。ごめん」

と彼女に謝ったが、重たい空気を背負ったまま2人は部屋へ戻って来た。

この「ロシアン事件」を切っ掛けに、2人の関係が大きく変わる「その時」が訪れるなど、この時は想像もつかなかった。

そして、部屋へ戻るなり彼女は何も言わずにシャワーを浴びだした。

僕は、どうしようこの空気!なんとかしなければと悩みながらテレビをつけたが、どの番組も全部ロシア語だから言ってる意味が理解できない!

持ち前の明るさを武器に下らないギャグでこの空気を変えられないかと考えたが、気の利いた冗談も浮かばないまま、マルガリータはシャワーを浴び終えて出て来た。

そして、これが今後の2人の関係を大きく変動させる事になる「その時」を迎えた正にその瞬間だった!

なんと、彼女はTバックにトップレスの姿で僕の前に現れたのだ。

その姿を見て唖然とする僕。

そんな僕をじっと見つめながら両手で胸を覆い隠す彼女。

流し目で僕をベッドルームへと誘うその姿は、世の男を黙らせるには十分過ぎる迫力と色っぽさがあった。

それは単純に女性の裸体を見て興奮するというよりも、ただ美しいと感じてしまう美術品を見ている感覚に近かった。

この状況を飲み込むまでに数秒はかかったであろうか。

それからすべての状況を理解し、そこで僕は新たな大人の一歩を踏み出す事となったのだった……

初めて訪れた辺境の地。

それはアジアとヨーロッパを繋ぐ黒海。

そこに面したとあるウクライナの都市、オデッサで起きた一夏のロマンス。

ここでもまた、一生忘れられない思い出が僕の胸に刻まれる事となった。

【あとがき】

パナソニックの創業者、松下幸之助。彼が面接をする際は決まってこう質問するという。「あなたはこれまで運が良い方でしたか?」と。それに答えるならば僕は「運が良い方です」と迷わず答えるだろう。しかし誰しも運が良ときもあれば悪い時もある。要は、運の良い時に如何にしてそのチャンスを見逃さずに掴むか。その為には、常にアンテナを張っていなければならない。ネガティブになっているうちは運が向いていてもそれに気づかず過ぎ去ってしまう。運を掴むかどうかは刹那の瞬間なのである。というのが僕の持論である。そしてそれらに起因するのはやはり行動に他ならない。行動しつづけましょう。健康でいられる限り、どこまでも。

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